富士見町生活録: DSL 篇

 高速かつ安価にインターネットに常時接続できる DSL はぜひ引こうと来る前から思っていました。 いったんはつながって便利に使っていたのですが、NorthPoint 倒産で切れてしまいました。その一部始終の報告です。

1. プロバイダ

 dslreports という DSL 情報のページで という条件で DSL のプロバイダを調べたところ、Telocity という会社が見つかりました。 こちらに来るまで聞いたことのない会社でしたが、大手のようでテレビ CM までやっています。月額 $39.95、初期費用 $24.95 で最大速度が downlink 784kbps uplink 392kbps とのことです。データリンク的にはなぜか ADSL ではなく SDSL を使っているようです。

2. ADSL vs SDSL

 まず、ADSL (Asymmetric Digital Subscriber Line, 非対称デジタル加入者線) では downlink が uplink よりも速いのに対して、 SDSL (Symmetric Digital Subscriber Line, 対称デジタル加入者線) は名前の通り上下とも同じ速度だという違いがあります。
 もう一つ重要なのは、ADSL は音声通話用のアナログ回線と一本の線を共用できるのに対して、 SDSL では共用ができず一本の線を SDSL 専用に使う、という点です。 このため SDSL では ADSL よりも配線工事の手間が増えますが、 私の場合は後述のように比較的簡単に済みました。
 逆に、ADSL では共用のためにスプリッタやフィルタという装置が必要なのに対して、 共用をしない SDSL ではこれらをつけなくて済むというメリットがあります。

3. 経過

 カリフォルニアの地域電話会社は Pacific Bell (以下 PacBell) なので、電話局からの線自体は PacBell が持っています。私の地域で Telocity の DSL サービス を契約する場合、PacBell の線を NorthPoint という会社が借りて SDSL を流し、さらにその SDSL の先にインターネットプロバイダとして Telocity がつながるという面倒な構成になります。そうでなくても DSL の工事は非常に時間がかかると聞いているのに、 こんなにいろんな会社が関わるといつになるか不安だったんですが、 実際に Telocity に申し込んでみると
10/31
申し込み
11/08
PacBell による工事
11/09
NorthPoint からアポの電話
11/13
NorthPoint による工事
11/14
gateway 発送
11/16
gateway 到着
と結構あっさりつながりました。

 なお、Menlo Park で Telocity に加入した知人の場合は NorthPoint の SDSL ではなく PacBell の ADSL だったそうです。 距離的には 10km ほどしか離れていませんが地域によって違うようです。

4. 工事

phone box 2 phone box 1  左の写真のような phone box と呼ばれる箱がアパートの裏にあり、 電話局からの線は各戸に入る前にここを経由します。
 右の写真では、電話局から来ている赤と黄色の線に、PacBell の工事の人が残していった
CUSTOMER: NorthPoint
SERVICE: SDSL-Link
という札がついています。これが今回 SDSL に割り当てられた線です。ここまでの工事は PacBell が知らない間にやってくれていました。phone box が家の外にあって勝手に触れる場合は、客が立ち会う必要はないようです。
 ここから先の工事は写真の NorthPoint (の下請けの工事会社) のお兄さんが私の立ち会いのもとでやってくれました。phone box 側では、 この電話局からの赤と黄色の線と、 私の部屋から来ている黄色と黒の線とをそれぞれつなぐだけで工事完了です。
ソケット 1 ソケット 2  次は室内の工事です。左の写真のように、 もともとあったグレーの電話用のソケットの左上に、NorthPoint のクリーム色のソケットがつきました。これが SDSL 用です。開けると右の写真のようになってます。phone box から来ている 4本の線のうち、赤と緑の線が前から使っていた電話用の線で、 使われていなかった黄色と黒の線が SDSL 用のソケットに配線されています。
 以上のように、工事は phone box と部屋の中とでそれぞれ線をつなぐだけで済み、 新たに線を引き回す必要はありませんでした。

5. gateway

gateway 1 gateway 2  計算機との接続ですが、Telocity では Telocity VelocityPort gateway と呼ばれる機械を貸してくれます。 左の写真のように B5 を越える結構な大きさです。
 右の写真のようにコネクタは がついていて、計算機との接続には 3つのうち好きなものを選べます。
gateway 基板  開けてみるとこんな基板が入っています。Motorola XPC850SRZT50B という PowerPC の CPU を使っているようです。
 少なくとも Ethernet で使っているかぎりでは、この gateway は NAT (IP Masquerade) 機能のない通常のルータとして動いているように見えます。 IP アドレスは gateway とユーザの計算機それぞれにつき、計算機側では default route としてこの gateway を指定するようになっています。
 gateway は DHCP サーバにもなっているので、計算機が DHCP を使う設定になっていればそのまま動きますが、返って来る IP アドレスは毎回同じなので、静的に設定してしまっても問題ありません。

6. NAT

 Telocity の SDSL サービスでは netmask は 255.255.255.252 なので gateway 以外につなげられる計算機は原則 1台のみですが、NAT (Network Address Translation) を使えば複数台計算機をつなぐことができます。
 一番手軽な方法として、最近 Telocity からアナウンスされた Connect and Protect Upgrade という $9.95/月のオプションサービスを付加すると最大 5台までつなげられます (gateway で NAT をやるのではないかと推測しています)。
 このサービスを契約する手もあったんですが、私は web サーバやメールサーバなども立ち上げたかったので、中古の Cobalt Qube2 を買って NAT をやらせています。
 このほか Fry's などで $100 台で売ってる NAT つきルータや PC-Unix の NAT 機能を使う手もあると思います。

7. 速度

 さて気になる速度ですが、gateway で動いている web サーバの統計のページでは DSL Line Speed 425984bps となっていました。dslreports によると私のアパートから CO (Central Office, プロバイダとの接続地点) までの距離は 8670ft とそれほど長くないのでもうちょっと出てもいいような気もしますが、 線の品質が悪いんでしょうか。 そういえばモデムで使っているときもよく切れました。
 実効速度は ftp.telocity.com というプロバイダの ftp サーバに 4MB のファイルを put/get して測定してみました。 回線速度に近い性能が出ていました:
put83.6秒401kbps
get84.8秒396kbps
 実際には、通信する相手によっては途中の経路がボトルネックになってもっと遅くなることもありましたが、 全体としてはかなり高速に通信ができていました。大学の研究室で LAN 経由でインターネットを使うのと比べてそれほど差は感じられませんでした。

8. NorthPoint 倒産によるサービス停止

 冗談はさておき、DSL 切れました。

 NorthPoint が Chapter 11 (会社更生法相当) の適用を申請したというアナウンスが出ていて気になってたんですが、3/23 に Telocity から来たメール (関連プレスリリースも出ています) によると とのことで、実際 3/29 に接続が切れました。
 同じ Telocity でも NorthPoint を使っていないユーザには直接の影響はないようです。
 DSL が切れている間は市内通話 (普通の契約だと無料) でかけられる Telocity のアクセスポイントが使い放題 (ただし 4h でいったん接続が切れる) なので、最低限の接続性は確保できていましたが、いったん DSL に慣れてしまうとアナログダイアルアップはつらいものがあります。
 その後ずっと待っていたら、4/20 になって というメールが来ました。こんな返事を返すまでに 3週間もかかるというのはあんまりですが、ここのプレスリリースは、Rhythms などの弱小回線プロバイダに移行しても、 また倒産して苦情が殺到したのではたまらないので、 方針を変えて大手の回線プロバイダを使うことにした、という風にも読めます (その後 2001/8 に Rhythms がほんとに Chapter 11 申請したことを考えると、正しい判断だったかもしれません)。
 ともかくこれ以上待ってもいつになるかわからないので、2001/4 に諦めてケーブル TV インターネットに移行しました。
返却箱  その後しばらくは連絡がなかったのですが、2001/6 になって突然 gateway を返却しろという手紙と、着払の伝票つきの返送用の箱が送られて来ました。 電源とケーブルは不要で本体だけ送れという指示が謎ですが、 指示通り送り返したのでこれで Telocity とは一応縁が切れたはずです。

 ちなみに Telocity は Hughes買収されて DIRECTV Broadband に社名変更し、サービス名も DIRECTV DSL に変わりました。
 その後さらに GM が Hughes を EchoStar に売却した挙げ句、とうとう DIRECTV DSL はサービス停止ということになったようです。

8.1. NorthPoint 倒産関連リンク

9. 関連リンク


YOSHIDA Hideki
Last modified: Mon Dec 16 22:47:16 JST 2002